好き好き好き好き好き。大好き。
君を想えば想うほど、君が嫌いになるの。
++ レンズの向こう側 ‐ said white ‐ ++
廊下で。屋上で。校庭で。
笑ってる君、昼寝してる君、サッカーで活躍している君。
私のレンズに映るのは、大嫌いな君の顔。
君は気付いていないだけ。
私が君にどれほど苦しめられているか。
爽やかな笑顔に、
真剣な眼差しに、
悪戯な表情でさえ。
何も、気付いちゃいないんだ。
君をこんなにも想っているのに。
黒縁丸眼鏡、典型的優等生、面白みも無い、詰まらない女。
それが君から見た私。
そんな事、分かってるよ。
私の事は、私が一番知っているの。
でもね。
私も女の子なんだよ。
着てみたい服だって。
読みたい雑誌だって沢山ある。
休日にはお洒落して。
素敵な街を、
素敵な男の子と、歩きたい。
女の子なら誰もが持っている、憧れ。
一回は信じた事がある、
白馬に乗った、私の王子様。
まだ一度も手にしてない、
甘酸っぱい、恋物語。
そんなものは理想だって、知ってるよ。
白馬の王子様なんて来るわけない。
たとえ王子様が来ても、
所詮、灰かぶりは灰かぶりのまま。
王子様に釣り合うわけないのよ。
斜め前の君の席。
真剣な眼差しがドキッとさせる。
苦しい。
動悸が突然早くなって、苦しくなる。
君を見つめる度に、酷くなる。
苦しい。
とっても苦しい。
涙が出るほど苦しいの。
でも泣いちゃいけない。
だって、レンズが曇ってしまうから。
絶対に外さない、この眼鏡。
外したらダメなんだよ。
もし眼鏡を外したら、私に掛かった魔法が解けてしまうから。
もし眼鏡を外したら、何もかもが壊れてしまう、気がする。
もし眼鏡を外したら。
きっとこの気持ち、抑えきれなくなってしまう。
これが恋だというのなら。
なんて恋って残酷なんでしょう。
苦しくって。痛くって。
泣きたくなるし、辛くて死にそう。
君の笑顔も声も全部、
私を殺す、刃になってしまうから。
ドキドキドキドキ。
この鼓動を止めて。
もう苦しくて耐えられない。
キリキリキリキリ。
君が他の女の子と話すたびに、
胸が痛むよ。
痛みの余り、張り裂けそうなくらいに。
もう治らない、不治の病なんだ。
病名は分からない。
恋の病なんて、優しいものじゃない。
原因は、多分君。
そんな君が大嫌い。
嫌い、嫌いよ。
私を苦しめないで。
これ以上悲しくさせないで。
でもそれ以上に君が大好き。
好きで好きで大好き。
好き過ぎて嫌い。
嫌いすぎて好き。
矛盾してるって、言われてもいい。
こんなに辛い恋、
張り裂けそうな想いも君のせい。
そんなに私をめちゃくちゃにするのなら、
思い切って私を壊してしまってよ。
君の手で壊れるのならかまわない。
この心臓が、
動悸に耐えられなくなって潰れる前に、
君の手で止めて?
お願い、お願い。
この口が、
告げてはいけない気持ちを口にする前に、
君の手で喉を引き裂いて?
君が好きなの。どうしようもないの。
でも駄目なの。伝えてはいけないの。
恋ってこんなに残酷で。
重いものだったんだね。
君に壊されてしまいたい。
そんな罪な夢、
私はずっと、見続けているんだよ。
***
窓を誰かが開けた途端、
風が吹いて、
プリントが、飛び散った。
それはまるで花びらが舞うように、美しく。
誰のだか分からない、プリントを、捕まえて。
ずれた眼鏡を気にしながら、手渡した。
微かに触れた、指先を、
離すのが勿体無くて。
顔を上げたらやっぱり君が居たの。
ずれかけた眼鏡の上から、
君と視線が合いそうで。
ああ。
駄目。
きっともう耐えられない。
世界で一番、君が嫌い。
・・・・・・・・・
複雑な恋心ってやつですかね・・・。
因みにこの「レンズの向こう側」は、このsaid blackとsaid whiteの二つで一つ。
基本的には同じ設定。
でも全く違う『私』でお送りしています。
こっちは白、あっちは黒、なんですが・・・。
これ白?!白か?!!!
お暇でしたら黒のほうも読んで下さいね。
あちらの方が堂々と、痛い愛ですから。
どちらかだけでも全く支障はありません(笑)
up by 2006.11.24