Rhume de l'ete 下駄箱にラブレター。 頭の中の憧れの人。 甘酸っぱい青春。 バレンタインに告白。 クラスメイトの中には、お化粧したり凄くお洒落な人もいたけれど そんなものはまだ私には早いと思っていた。 雑誌だってあまり読まないし、恋の話よりもふざけた話のほうがしていて楽しかった。 恋なんてまだ先の話だなんて思っていた。 そんなものは、まだお洒落な一部の女の子だけの特権だなんて。 少なくとも私はそう思っていたし、友達もそうだと思っていた。 「私、好きな人できたんだ」 だから、そういわれた時は突然横殴りされた気分になった。 友達は頬を染めて、私の知らない顔をしていた。 真っ赤になったり、不安そうにしたり。 私はそんな彼女を少し遠くから眺めていた。 なんだか置いてけぼりにされた気分。 友達を横取り、された気分。 でもそれは彼女に限った事じゃなかった。 周りの女の子たちは皆それぞれ好きな人がいるみたいだ。 中には告白して、付き合っている人も。 私には理解できなかった。 なんだってそう、好きになれるんだろう。 彼氏なんて居てどうするの? 付き合ってどうするの? それは屁理屈、なのだろうけど私には理解できなかったのだ。 ただ、自分が惨めで一人ぼっちになったような気だけした。 男の子と話した事なんて数えるくらいしかなかった。 友達と、お目当ての男の子とが話しているときは 私は極力目立たないように椅子に座っていた。 「きっと両思いだよ」といえるほど、 頬を染めながらも嬉しそうに笑う友達を受け入れるほど 私は大人じゃなかった。 「あ、落ちたよ」 憂鬱感に浸りながら転がしてしまった鉛筆を拾ってくれたのは、 隣の席の男の子だった。 彼は目立つタイプではなく、女の子にも興味がありそうになく、 いつも机に突っ伏して寝ていたから私は言葉を交わすのは初めてだった。 「ありがとう」 素っ気無く受け取った私は彼の手元に思わず目が行った。 「医学部に進むには」 難しそうな重い本だ。 私の視線に気付くと、彼は照れたように笑う。 「まだ誰にも言うなよ」 「医学部に進むの」 「小さい頃からの夢なんだ」 交わした言葉はそれだけだ。 でもそれだけで十分だった。 寝ている姿しか見たことがなかった彼は、 真剣な眼差しで字を追っていた。 思えば彼は案外成績は良かった気がする。 でも一番吃驚したのはあの笑顔。 夢なんだ、と告げた彼はあんなに良い笑顔で笑うのか。 彼の夢を知ったのも、笑顔を見たのも、私だけ。 なんだか特別な彼の秘密を知ったみたいで、 ちょっと嬉しかった。 でもその気持ちの名前を私は知らない。 彼を目で追ってしまったり、 彼と話すたびに動悸が早くなったり、 わけ分からない。 彼は格好良い部類ではないし、 どっちかっていうと目立たない人なのに なんで気にしなきゃならないんだろう。 もしこれが恋だというのなら、 あんなに簡単に落ちてしまった私は随分安いものだ。 単純に男慣れしてないんだ、なんて内心毒づいたけれど、 それでこの気持ちが治まったわけではない。 はやり始めた夏風邪のように、 私は顔を真っ赤にさせて頬杖をついた。 by 070504 修正:080208 |