嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い。大嫌い。
貴方を憎めば憎むほど、愛おしくなる。
++ レンズの向こう側 ‐said black ‐ ++
教室。通学路。電車の中。
真面目な貴方、笑う貴方、眠たそうに目を擦る貴方。
毎日私のレンズに映るのは、愛しい貴方の姿。
貴方は知らないでしょう。
私がこんなに貴方を思っている事を。
きっと貴方の目に映るのは、黒い眼鏡の優等生。
でもそのレンズの向こう、
きっと貴方の想像と正反対の私が居る。
貴方は私の事なんて、何にも知らないでしょう。
でもね。
私は沢山知っているの。貴方のこと。
成績優秀、常にクラスで二番目。
全国区レベルの腕前の、サッカー部の部長。
この学校の女子全員の、憧れの的。
誕生日は十二月。
血液型はB型。
好きな色は青。
家族構成、父母姉の四人家族。
趣味は部活。
初恋の相手は、近所のお姉さん。
私の斜め前、貴方の席。
知らないでしょう。
貴方の事、ずっと見つめているのよ。
もしも視線で人を殺せるのなら、
きっと私は貴方を殺してしまう。
この眼鏡、何で掛けているか知っている?
実はそんなに目は悪くないのよ。
掛けなくても十分生活できるの。
コンタクトに換えようかと、何度思った事か。
今時黒縁丸眼鏡。
ダサいといわれても仕方ないもの。
こんな眼鏡掛けている優等生ってはっきり言ってかなり浮くでしょ?
ちゃんと理由があるの。
私だって女の子だもの。
お洒落にだって、興味くらいあるわ。
でもね。
もし眼鏡を外してしまったら、困るのは貴方のほうよ。
きっと私、視線で人を殺せるわ。
本当よ、嘘じゃないわ。
私、貴方を殺してしまう。
このレンズを通しているから、今は安全なのよ。
吃驚したでしょう。
だってただ見つめているだけじゃないもの。
想いをこめて、見つめているのよ。
誰にも負けない想いをこめて。
クラスの女の子にも。
貴方のサッカーに向ける情熱にだって負けない。
愛と、沢山の嫌いと憎しみを込めているのだから。
初恋?
そんな甘いものじゃない。
愛情?
そんな美しいものじゃない。
―――憎悪。
それが一番しっくり来るの。
可笑しいでしょ。
愛しい貴方が世界で一番嫌い。
いつも貴方を見つめながら、貴方を壊す事ばかり考えている。
貴方が壊れてしまう事を望んでいる。
―――いいえ。
貴方が私に壊されちゃえばいいのにって思うわ。
そんな事言ったら、怖がられるかしら。
嫌われちゃうかしら。
嫌えばいい。
私の事を、憎めばいい。
憎んで、嫌って、世界で一番嫌いになって。
私が貴方にそうするように、
貴方も私をそうしてよ。
憎悪の篭った眼差しで、
私が死ぬまで見つめてよ。
愛なんていらない。
貴方が私を誰より憎んでくれるのなら。
愛なんて、すぐに壊れてしまうもの。
恋なんて、すぐに過ぎ去ってしまうもの。
でも憎しみは、永遠だから。
貴方を嫌いになるほど、貴方が愛しくなる。
貴方を愛しく思うほど、貴方を嫌いになる。
矛盾した、この感情。
異常なほどの、憎悪の気持ち。
この視線に気付いて。
この気持ちに気付いて。
お願い。
私だけを憎んで。
ずっとずっと憎しみだけを募らせて。
お互いが壊れる位、見つめあったら。
お互いが壊れる位、抱きしめて。
愛の言葉なんて要らない。
貴方に私は壊されたい。
貴方を私を壊したい。
そんな夢を見ながら、今日も貴方を見つめている。
***
「あいつ、いつも本読んでるよな。友達いないんじゃね?」
「やめとけって。優等生だから仕方ないって」
「あいつって誰?」
「ほら、黒縁眼鏡の―――」
クラスメイトの会話が耳に入って、
何となく其方に目を向けた。
さり気なく、私を見た貴方。
バチン、と音が鳴ったと思ったくらいピッタリと。
偶然、目が合った。
レンズのこちら側、私の瞳。
レンズの向こう側、君の顔。
初めて見たわね?
私の瞳。
貴方は吃驚したように一瞬目を見開いたけど、
私から視線は外せないみたい。
その視線。
もう捕らえて、放さないんだから。
この距離。
このレンズが鬱陶しい位に、
もっと貴方に近づきたい。
貴方の事が、世界で一番、大好き。
・・・・・・・・・
暗い。怖い。異常愛。
うわぁ、やっちゃったよ。書いちゃったよ。
因みにこの「レンズの向こう側」は、このsaid blackとsaid whiteの二つで一つ。
場面は全く同じ。
でも全く違う『私』でお送りしています。
まあ簡単に言えば、こっちは黒、あっちは白です。
(そのままですね・・・)
お暇でしたら白の方も読んで下さいね。
どちらかだけでも全く支障はありません(笑)
up by 2006.11.24