今宵も恐怖に脅かされ。 隣 人 明日は学校、夕方からバイト。 今の成績をキープするためには朝まで徹夜で勉強。 親元から離れて上京した。 憧れの女子大生になった。 薄汚れたアパート、家賃は格安。 近所づきあいは決して良いものではないけれど、 取りあえず上手くやっています。 隣に住んでいるのはよれよれの背広を着たお兄さん。 まだ若く、それなりの一人暮らしをしているようだ。 ここに引っ越してきたとき、優しく笑いかけてくれたことを覚えている。 でもそれきり彼とは会う事はない。 いいや、私達が直接会う事なんて、一度きりも無いと思う。 ダン、ダン、ダン 深夜のアパートの扉が脆く、薄い事をこれほど恨んだ事はない。 規則的に、今宵もお誘いの言葉が掛かる。 ダンダンダンダン ダンダンダン、ダン なんで誰も気付いてくれないの? こんな格安のアパート、近所付き合いは決して良いほうではない。 扉を叩く右手の手首は愁色に染まり。 その狂ったような目は、彼が早口言葉のようなラベルが貼られた薬物を好物をしている事を語っていた。 毛布を頭まで深く被り、 只、震えていた。 扉の向こう側、節を付けるように彼が何かを言っていた。 「・・・・好むものです・・・」 「どうか・・・くれませんか」 「追伸、・・・・・」 「只の・・・・・隣人です」 魔が差した、とでもいうのだろうか。 身体は勝手に毛布から這い出していた。 音をたてないように扉に近づくと、その鍵穴からそっと外をうかがった。 「!!!」 にこにこにこにこ。 鍵穴からこぼれんばかりの病的スマイルが、 私に向けられていた。 「拝啓、そちらを好む者です」 逸らせない、逸らせない、逸らせない。 その病的スマイルは私を。 「どうか扉を開けてみてはくれませんか」 駄目だ、開けたらいけない。 もし開けたら・・・。 開けたら・・・・どうなる? 殺される?捕まる? 「追伸、怪しい者では在りません」 そう、怪しい者ではないのだけれど。 だって、あなたは 『只の隣人です』 鍵穴からこぼれる病的スマイル。 そんな幸せなの? この扉を開けたら。 この扉を開けたら。 幸せになれますか。 思わずドアノブに伸ばしかけた手を、押さえつけた。 駄目だ、だめだ、ダメだ。 拝啓、只の隣人さん あなたの病的スマイルを、私にもわけてもらえますか? 追伸、只の隣人さん この扉を開けるのは時間の問題 私をどうか月まで連れて行って 愚かな私を嘲笑うのは、窓から覗く、満月の光。 ………… 「隣人」という曲から作った「A」の扉の内側からの視点。 追い込まれる恐怖、狂気を書きたかったけど、 なんか大人しくなってしまいました。 扉を開けたらきっと戻ってこれません。 (絶対!) 再度ですが、薬はダメです。 手を伸ばしたら最後、病的スマイルどころじゃないでしょう。 by 070313 |