わたしは眠りにつくはずだった。
でも眠れなかったのよ。
魔女がさぼったんだわ、きっと。

王子様が百年後に現れるまで、わたしは待たなきゃならないのに。


茨の囲む城の最上階の部屋には、
百年の眠りについた美しいお姫様がいて、
王子様のキスをまっているのだ、と聞いた。


こ れ は 、 ど う い う こ と な の だ ?


最上階、天蓋つきの寝台に横たわるお姫様は、
美しかった。

何度口付けても、目覚める事は無いけれど。


煌びやかなドレスの中心部、お姫様の胸には、
とても豪華な装飾の短剣が突きたてられていた。

安らかに眠る姫が自ら付きたてたのは間違いなさそうだ。


姫の傍らに、一冊のノートが落ちていた。


皆眠ってしまった。
わたしは眠れない。
王子様、まだかしら。


時は残酷に過ぎていくわ。
わたしはどんどん老いてゆく。


絶えられない。
老いて、美しさを失ったわたしを王子様に見られたくないわ。



短剣を見つけたの。
お父様のものだわ。
それにしてもよく皆寝ているのね。


ずるいわ。


でも、わたしももうすぐ眠るから。




ノートに綴られた物語は、
全てを語っていた。



老いてゆくなんて耐えられないわ。
王子様、わたし、うつくしいままでいたいの。
百年も待てない、ごめんなさい。


魔女が呪いを掛け損ねてしまったのは仕方ないわ。

せめて美しいまま。



王子様、我儘を言うならばわたし・・・



最後の行は、滲んでいて読む事が出来なかった。
姫の涙で滲んだのかもしれない。

王子は姫の前に泣き崩れ、息絶えた姫を抱きしめた。


美しいよ、お姫様。
大丈夫、貴女は世界一美しいから。

私が黄泉の国までお供しましょう。



眠り姫の



王子様は百年後の世界から、永遠の眠りについた姫を追いかけた。


(王子様、我儘を言うならわたし、
                貴方に愛してると言いたかった)


by 070312