人 魚 姫 レシピ 海辺の国の王子様は、とてもグルメな事で有名だった。 その地位を利用して、伝統料理をはじめ、話題の食べ物は全て食べた。 珍味という珍味をも食べつくした彼だったが、彼にも一つ、 どうしても食べられないものがあった。 魚である。 焼き魚、煮魚、魚の刺身。 例外なく魚が大嫌いな王子は、 食べるのは勿論、見るだけでも吐き気を催すほどだった。 王子は今、その魚嫌いに悩まされていた。 少し前の話である。 王子は一人の少女と出会い、恋に落ちた。 その少女はある日突然現れて、それからずっと王子の傍にいた。 彼女は魔女に命を狙われていて、 王子はその魔女を見事倒し、少女を妻とすることをけついしたのである。 ここまでは良かった。 王子は王子らしく戦ったし、魔女は断末魔の声を上げ、 少女への憎しみを露にしながら息絶えたのだ。 問題は、少女がある国の姫だった事。 王子が他国の姫を妻にする事は一番のぞましいことである。 ―――姫が深海の国の、人魚姫でなければ。 彼女は魚を食べない。 王子も魚を食べない。 (少女がもし魚を食べたとしたら共食いである。) 互いに魚を食べないのなら、ぴったりだとおもうだろう。 しかし、 王子は見るのも嫌、筋金入りの魚嫌いだ。 今は勿論人間だが、 少女のその、細く白いすらりと伸びた二本の脚のかわりに うろこのある大きなヒレがあったかと思うだけで、 王子は幻滅した。 だが、少女の事は本当に愛しているのだ。 矛盾している。 果てしなく矛盾している。 王子は彼女に辛く当たった。 ――魚が嫌いだから。 酷い事も言うし、優しくなんてしなかった。 結局のところ、王子は信じられなかったのだ。 自分の彼女への愛も、 彼女の王子に対しての愛も。 ―――愛とはなんだ。 彼女は王子が魚嫌いと知っているはずだ。 それで何故、俺の傍に居たがるのだ? ある日、遂に王子に限界が来た。 少女が魚料理を前に泣き出したのだ。 勿論王子の彼女に対しての嫌がらせであり、 焼かれ煮られたかつての仲間達に少女は耐えられなかった。 王子は泣き叫ぶ少女を無理やり部屋に引きずり込むと、 壁に叩きつけて言った。 「俺、魚って大っキライなんだよね」 「お・・王子・・・・さま」 瞳に涙を溜める少女に腹が立ち、 その頬を殴りつけた。 綺麗な白い肌が赤く腫れ上がる。 怯える目は彼の加虐心を煽るだけだった。 「王子様、おやめ下さい、王子様!!」 少女の訴えを嘲笑い、 更に殴りつけた。 人魚姫だったのが罪なのだ。 殴りつけるたびに少女は泣き叫び、 「ごめんなさい」を連呼した。 唇が切れ、散った血はとても綺麗に顔に飛び散る。 王子は手を止めた。 「人魚姫、俺を愛しているか?」 言いながら、頸をぐっと締め付けた。 ―――ここまでされて、果たして彼女は俺を愛するのだろうか。 否、まさか。彼女はきっともう愛想を尽くすだろう・・・。 それでも王子の予想に反し、少女は言った。 「愛しています」 「王子様を誰より愛しく思っております」 嘘だ、嘘だ、嘘だ。 こんなに痛めつけてもまだそんな事言うのか。 もし、そうなら。 本当に俺を愛しているのなら。 ―――俺はどうするべきだろう。 王子はさらに力を強める。 息ができず、口をパクパクさせる様子は 本当に魚そっくりだった。 その姿が酷く美しく王子の目には映ったのだった。 王子は、ぱっと手を放す。 少女は床に倒れこんだ。 「俺、魚見るたびに吐き気がするんだけどさ。 今、急に魚が食べたくなった」 そのまま少女を床に押し倒した。 優しく口付け、一言。 「さあ、どうしようか?」 部屋の中には愛に餓えた魚嫌いの王子と人魚姫。 痛めつけても、彼女は決して離れようとしない。 人魚姫は既に王子の虜だったのだから。 寝台の上で、美味しく召し上がれ。 by 070312 |