灰かぶりと呼ばれた少女は、 魔法使いに魔法を掛けてもらって変身した。 カボチャの馬車に乗って、王子様の舞踏会に行った。 憧れの王子様と踊って。 12時の鐘の音と共に飛び出して、ガラスの靴を片方落として去っていった。 あとは王子様がガラスの靴を頼りに探しに来るのをまつばかり、 だったのに。 ガシャン、と音がして、ガラスの靴は砕けた。 「王子になんてくれてやるか」 砕けたガラスの靴を見て、嘲笑いながら近づくのは、魔法使いである。 「灰かぶりは王子様の嫁にはならない」 「一生灰かぶりのまま」 「ボクだけが灰かぶりを好きでいればいいのだ」 少女は、魔法使いを見つめた。 手がかりのガラスの靴はもう砕けて使いようにならない。 王子様が探しに来る事はない。 「魔法使いさん」 魔法使いは優しく少女の頭を撫でた。 「魔法使いさん、わたしは」 「灰かぶり、王子なんてやめてボクにしなよ」 魔法使いは笑った。 笑いながら、心配そうに瞳を揺らした。 「舞踏会も毎日開く。好きなものもなんでも用意するよ」 少女の顔色を伺うように覗き込みながら、 魔法使いは言った。 「ボクを拒むかい、灰かぶり」 彼女の言葉を遮って、彼は言い続けた。 「もしも拒むなら、王子を殺してでも君を手に入れる」 実は怖かったんだ。 否定されるのが。 少女に否定されたらどうしようと、 王子様のほうが良いと、いわれたらどうすれば良い? 少女に恋した魔法使いは、 何をしてでも少女を手に入れたかったんだ。 初めての恋、たった一つの恋。 魔法使いは恋してはいけないのに。 魔法使いは俯いた。 両手を握り締めながら、彼女の言葉を待った。 魔法使いは もう、どうすることもできないほど、少女を愛してしまったんだ。 硝子の 靴 はいらない 「魔法使いさん、そんなものいらないよ」 ―――わたしは貴方の傍に居られれば、それで。 by 070312 |