「二年生代表の言葉、一組 波崎さん」



礼儀正しい、綺麗な動作で舞台にあがる少女は利津である。
つい先刻まであんなにも騒いでいたのに、今はもう「学校の顔」。

先生や先輩にも感心される良い生徒。
同級生にも信頼される良いクラスメイト。
利津は先生に生徒会へも推薦されているらしい。
ただ、私はあんな大人しい利津、なんだか辛そうで好きではない。


立派に挨拶をする彼女は、こんなにも近いのにとても遠い。
実は私はちょっと怖い。
利津がどんどん離れていってしまいそうで。
話をするたびに新しい友達や環境へと溶け込んでいく。
新しいこと、新しいもの。
利津はどんどん吸収して、離れていってしまう気がするのだ。


それは醜い嫉妬心なのだろうけど。


舞台の上の利津から目を離し、俯いた。
ああ、最悪。
本当にテンション下がるし。

結局、私は三組だったのだ。

そしてまた気の合う友達は居そうにも無い。
なんでこうも立て続けに?
やっぱり先生の陰謀か・・・!!?


始業式が終わると、各々進級したクラスへと入る。
一組と三組は階段を挟んでいるため、案外遠い。
気軽に訪ねられる距離じゃないよなあ。
それに、近くても私は他のクラスを訪ねるなんて真似、恥ずかしくて出来ないよ。


さっきまでの鼓動は嘘のように、ずん、と沈んだ心臓。
私は悲惨な気持ちで何度目か分からない溜息をついた。



「ねえ、あからさまに溜息なんてつかないでくれる」



突然話しかけられて、思わず飛び上がる。
恐る恐る声のする後ろへと顔を向けると、 気だるそうな少女がうんざりした顔で私を見ていた。


「え・・」

「さっきから気になるんだけど」


背丈は私より頭一個分高く、長くストレートな髪をおろしている。
顔立ちは整っているが、釣り目気味の瞳は細められている。


・・・・・・怖えェェェ!!!


何?!やばいんだけど!!なんか、怖いんですけど?!
怒ってる、怒ってるよね!!?

私は小さく素早く謝ると、慌てて前に向き直った。
綺麗な顔ほど怒るとおっかないんだな・・・・。
どうしよう、この人の怒り買っちゃったよ。
同じクラス、だよね?
うわああああもう関わらないようにしよう。




っ て 思 っ た よ ね 、 そ の 時 は 確 実 に 。



なんだろう、今のこの体制。
窓側のぽかぽかお昼寝席。
なんか、もう大人しく毎日を過ごそうと思ったよね?私。
じっとするって思ったよね、私。

なんでしょう。
なんで、こんな常態に?




「あんた隣の席?よろしく、さっきの不幸少女」





元桜花世
二年一組三十五番
凛とした顔立ちは時折不機嫌に歪められる。
怒ると怖い(らしい)。
灯の二年生でのクラスメイト。



ふっ、と捕食獣のように口角を吊り上げる花世と 獲物のように顔を引きつらせた私。





初対面最悪警報発動中
利津、私はどうやら花世ちゃんと仲良しにならないといけないらしいよ?





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灯、気弱な中学二年生。
近頃は三度の飯より花世が怖い。
それでも口答えなんて出来ずに、
いつも笑顔で話を聞く。

「え、宿題?・・・いいよ写して(涙)」

馬鹿で愚かな女の子。


070602