桜並木の一本道。
まだ、多少時間が早いからか私達のほかには誰の姿も無い。
春といっても少し肌寒くて首にはマフラーを巻いて。
もう春だと感じさせるのは満開に咲いた桜だけだ。



「りっつんのバカヤロー」
「あー、はいはいはいはい」
「何?!うわ、その反応傷つく!」


静かな並木道に私の声が虚しく響く。
これじゃ、まるで馬鹿だ。
いや、馬鹿だけどさ。煩いな!


「今日の占い最悪だったんだって!」
「占いなんて当たらないよ」


私が必死に訴える隣では、少女が単調に返事を返す。



波崎利津。
私の幼馴染で、とってもいい子。
逆立ちしても真似できない、慈悲深さをもった聖母のような子。
ただしその聖母のごとき微笑は、何故か私には向けられない。

きっちりと揃えた前髪に、同じく肩の辺りで揃う漆黒の髪。
同色の縁眼鏡が彼女を知的に見せる。
素直で純粋で、花も恥らう乙女とはまさにこの子の為にある言葉だ(言葉の意味は知らないけど)。


私と利津は道を挟んで向かい側の家に住んでいる。
だから、ずっと、それこそ赤ちゃんの頃からずっと一緒なのだ。



「今日の運勢。優柔不断な自分にイライラ。上司か難題を押し付けられるかも!」
「でも灯ちゃん。優柔不断なのは何時もだよね?」
「りっつん冷たい!なんて冷たい子なの、お母さんそんな子に育てた覚えはありません!」
「育てられた覚えもありません!」
「でも、どうしよう。遂に、遂にこの日がやってきてしまったのですよ?!」


この日、そうだ、この日がやってきてしまったのだ。
今日と言う日がごっそりと抜け落ちてしまえばいいものを、 毎日神社へお参りに行っても、寝る前にアーメン、と願っても(ついでに死んだ祖父ちゃんの 仏壇にもブツブツ手を合わせたけど)、この日はやっぱり来た。


「仕方ない・・・あとは学校ごと爆破・・・」
「灯ちゃん、落ち着きなさい」


でも、と項垂れる私を励ますかのように、利津は言う。


「大丈夫だよたかがクラス替えだって」
「気安く呼ぶなァァァ!!その名称を言ったらダメだ!!!」
「灯ちゃん病院行けば、頭の」


たかがクラス替え、されどクラス替え。
がっくり、とあからさまに肩を落とす。


利津は知らないのだ。クラス替えの恐ろしさを。


クラス替え、それは先生の仕組んだ陰謀だというのに・・・!!


思い出すのは一年前。
あれはまだぴかぴかの一年生の私。
真新しくて、まだパリっとのりの利いた制服を身につけてわくわくと、 しかしちょっぴり緊張しながらの初登校。
我ながら、あの頃は可愛かった(自信過剰)。

が。
希望に満ち溢れた期待は裏切られた。


同 じ ク ラ ス に 知 り 合 い 居 な い ・・・・ ! ! 


なんでこうも、よりによって。
たったの三クラスなのに、なんで誰も知り合い居ないんだろう。
まあ、うちの小学校から来た人は少なかったけど、何で!!


そうして私こと、不幸少女 紫堂灯は絶望の淵に早くも追い込まれたのだった・・・・・。



「先生の陰謀関係ないじゃん」
「甘いな利津君。先生は毎年毎年、折角一年間掛けて仲良くなった友達をも、 次の年のクラス替えで『沢山な人と仲良くなりなさいね』なんて言って引き離すのさ・・・ って先輩が言ってた」
「どんな先輩だよ」



本格的に頭を抱え始めた私。
利津も何故か頭を抱える。

(灯ちゃん、大丈夫かなぁ。妄想入ってるよ・・・)
なんて利津が考えてたなんてことは灯は知る由も無い。


「友達作ればいいだけでしょ」
「それ、私に言うの」
「・・・・・・・」


問題は此処にあった。
私は、人と話す事を大の苦手とする。

自分から話しかけられない。
自分の意見を言えない。
noといえない生粋の日本人。


利津と話しているときは、普通に話せるのに。
初対面や苦手なタイプの人の前に立つとどうしてもダメなのだ。
どもるし、声は震えるし。


私は臆病者。弱虫。
人に嫌われるのが怖くてなんにも一人で出来ない。


だからといって、誰かにあわせるなんてそれもダメ。
ああ、こんなんだから友達できないんだよ・・・。



「でも、もしかしたら同じクラスかもよ?」
「・・・・・そうかなぁ」
「違うクラスでも休み時間に会いに行けばいいよ」
「・・・・・うん」


すっかり沈んでしまった心に、私は自分が嫌になった。
また、利津に気を使わせてしまった。



校門が見える。
掲示板にはもう、クラス発表がされている。
群がる人。

・・・・なんだか頭がくらくらする。
緊張のあまり、胃が締め付けられて吐きそうだ。




あと、学校まで5m。
あと、30秒。



早まる鼓動と共に、私は心の中で叫んだ。





「もう学校なんて消えれば良いのにーーーー!!!」



4月6日の恐怖!!
(4月6日。毎年、大体始業式。灯ちゃんの嫌いな行事ナンバーワン!)





*「初対面最悪警報」へ無駄に続く。


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軽いな、このシリーズ。
なんだかんだで連載気味になってる・・・・・!
暖かく見守っていてください。
馬鹿で下らない中学生のお話。


070530