まだ外は寒くって、吐く息は白くて。
擦り合わせる手は赤くなっていて。
寒い。
もう三月末だというのに、春には程遠い。
教室ではストーブが炊かれている。
ぬくぬくとした温かさが待っているはずである。
しかし、私は教室へは帰らない。
私の格好は制服にマフラーだけという実に学生らしく、寒い格好だった。
自分で自分の肩を抱きながら、悪態をつく。
寒いはずだ。
今日は最高気温10℃。
―――ここは風の吹き荒れる屋上。
バカヤロー、寒いんだよコンチクショウ。
柵に近づき、階下を見下ろすと、同じ制服を着た少年少女が、わらわら集まって騒いでいる。
いや、泣いているのだろう。
今日は卒業式。
私は式を抜けてきたのである。
くだらない、泣く必要なんて無い。
今生の別れなんてわけじゃない。
卒業なんて、卒業なんて。
それにしても寒い。
凍えてしまいそうだ。
わあわあと、騒ぐ同級生達を見下ろす。
いや、見下しているのかもしれない。
私はいつもそうやって、人を妬み、見下しているのかもしれない。
「あぁ、こんなとこにいた」
扉が開いたと思ったら、顔を覗かせたのは数少ない友人の一人だった。
「また式を抜け出して。今日で最後なのに」
「最後なんていうなよ。たかが卒業じゃないか」
頬を膨らませる友人の頬を突き、
ふっと笑うと私はまた階下へ視線を戻した。
「もう、最後なんだね」
「だから最後なんかじゃないって」
「なんだ、花世<ハナヨ>、淋しいだけじゃん」
淋しい?そんなわけないよ。
下等なクラスメイト達と会わずにすんで清々する。
そう思わないの?
利津<リツ>もそう思うでしょ。
「でも私はさみしいよ。花世と会えなくなるの」
「利津の馬鹿」
「酷い、馬鹿なんていわない!」
はい、寒いでしょ。
君が貸してくれた手袋を奪いとって、
濡れる瞳を隠すために私はまたそっぽをむくんだ。
馬鹿だよ。
そんな事言ったらさよなら、って笑って言えないよ。
退屈な授業、退屈なクラスメイト。
それでも毎日学校に来てたのはあんたに会うためだよ。
こんなに一緒に居て楽しい友達はあんただけ。
卒業なんて嫌い。
淋しくなるじゃん。
これから毎日、メールしようか。
大好きだよ。
気まぐれガールフレンド。
(女同士、彼氏にはなれないけど)
(誰よりも君の事分かってあげるよ)
(利津、いつまでも友達だよね?)
up by 2007.03.02